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DNA損傷について









DNA
損傷応答とは?

細胞の生命活動はゲノム情報に支配されていると言っても過言ではありません。なぜなら、細胞の生命活動は蛋白の修飾によって制御されており、その蛋白質の産生はゲノム情報に依存しているからです。つまりゲノム情報の変異は変異蛋白の原因となり、その変異蛋白が異常な機能を獲得した場合や機能不全を示した場合、正常蛋白の細胞内濃度を変化させた場合などは、正常な細胞活動の維持が困難になってきます。これはゲノムの健全性の確保が細胞にとって極めて重要であることを意味します。

ところがDNAが損傷を受けることは決して珍しいことではありません。例えば、紫外線や自然放射線への暴露といった外的刺激、細胞内で生じる活性酸素やDNA複製、DNA recombinationなどの細胞活動によってもDNAは損傷しています。

これらの損傷に対し細胞は「DNA損傷応答」という機構を用いて対応しています。このDNA損傷応答も他の細胞活動と同じように,蛋白の修飾により制御されており、既に関連遺伝子がいくつも発見されています。そして、これらの遺伝子変異が様々な遺伝性疾患の責任遺伝子であることも既に明らかにされています。例えばATMataxia-telangiectasia mutated)遺伝子の変異によって進行性小脳変性、眼・皮膚の毛細血管拡張、易感染性を主徴とする毛細血管拡張性運動失調症(Ataxia-telangiectasia: AT)という疾患がおこります。その他にも図に示すような遺伝子の変異を原因とした疾患が報告されています。

これらの疾患における一つの重大な症状は,「易発癌性」「免疫不全」です。DNA損傷応答関連遺伝子の変異によってこのような症状が起きるということは、言い換えればDNA損傷応答機構は,個体において発癌を防止したり,正常な免疫機能を保持したりするために重要であると考えられます。そのため、DNA損傷応答の研究は,癌や免疫不全といった疾患を理解し,将来的な予防法や治療法に結びつけるという点で世界的に重要視されています

 

 

DNA損傷の種類とDNA二本鎖損傷の危険性

一口にDNA損傷といっても,いろいろな損傷があります.たとえば,DNAの酸化,脱アミノ化,加水分解,チミン二量体の形成,intrastrand cross link, interstrand crosslink, DNA一本鎖切断,DNA二本鎖切断などです。

DNAは二重らせん構造をとっており、二本鎖のうち一方が損傷したとしても、正常に保たれているもう一方のDNA鎖を鋳型として、損傷部位を修復することができます。しかし、DNA二本鎖の両方が切断されてしまった場合にはどうなるでしょうか?ただ,単純に切れてしまっただけなら,すぐにくっつけてしまうことができます.ですが、もし切断端でDNAの一部が失われたり、化学修飾が起きていたら単純にくっつけることはできません。実際、放射線照射などの外的要因によって起こるDNA二本鎖損傷では,このような"きたない"DNA切断端ができているようです。DNA二本鎖損傷では,正常な遺伝情報を保持している"もう一方のDNA"がないため、少なからず遺伝子の情報が失われてしまいます。つまり、DNA二本鎖損傷は特に危険なDNA損傷というわけです(注:ただし,姉妹染色体を用いたhomologous recombinationという修復方法では、遺伝情報を正確に修復することも可能です。)遺伝情報が失われるとはいうものの、切断端を放置しておくと,ますます遺伝情報が失われたり、切断部位周辺の遺伝子の転写が行えなくなるので、細胞としては、なんとしてでもDNA切断部位をつなぎなおさなくてはなりません。そこで、"きたない"DNA断端を処理して,きれいにしてから再結合するというプロセスが必要となります。また、細胞内にいくつもDNA二本鎖切断がある場合には,元の切断端同士が結合できるように、切断端をすぐ近いところに保持しておく必要があります。(万が一、元とは違ったDNA切断端同士が結合してしまうと、腫瘍細胞でよく見られるような染色体転座が形成されることになり危険です。)そして、これらの修復を行うための時間の確保も必要となってきます。これらのことはDNA損傷部位に集結してくる蛋白によって行われていきます。




修復蛋白の働き

DNA二本鎖損傷が起きると、損傷部位に様々な蛋白質が集結して、修復のための足場作りや時間稼ぎ、修復方法の選択などを行っていると考えられています。

優れたレビュー記事のいくつかでは、DNA damage responseシグナリングに関わる遺伝子をsensor, transducer, effecter3つにグループ分けしています。グループ分けをすることで、複雑なシグナリングが理解しやすくなりますが、反面、とある遺伝子が本当にsensorなのか,それともtransducerなのか、を厳密に区別することは難しく、このことを疑問に思ってしまうと、頭の中がこんがらがってしまいます。そこで、ここではあえてグループ分けをせず、シグナリングの順番に話を進めていきます。

まず、細胞内にできたDNA二本鎖損傷は, MRE11RAD50NBS1(MRN) complexによって認識されるとされています [Uziel T et al. EMBO J. 2003 Oct 15;22(20):5612-21.](下図1)

MRE11RAD50NBS1MRN complexは次の疾患の責任遺伝子です

蛋白質

疾患名

参考文献

MRE11

Ataxia-telangiectasia related disease

MIM #604391 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/omim/604391

RAD50

RAD50 deficiency

MIM #613078 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/omim/613078

NBS1

Nijmegen breakage syndrome

MIM #251260 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/omim/251260

MRN complex

Ataxia-telangiectasia

MIM #208900 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/omim/208900

そして、MRN complexは、phosphatidylinositol 3-kinase family of proteinsの一つであるATMの活性化を促します。このキナーゼはDNA損傷応答で指令的な役割を果たす重要因子です。

通常,ATMは不活性型の2量体 (多量体?) として存在しますが、DNA二本鎖損傷が起こったときには、Ser1981が自己リン酸化され、キナーゼとしての活性をもつ単量体となり [Bakkenist CJ, Kastan MB. Nature. 2003 Jan 30;421(6922):499-506.]DNA損傷部位に再局在します(上図A)。次に,活性型ATMDNA損傷部位周辺のヒストンH2AXをリン酸化します[Burma S et al. J Biol Chem. 2001 Nov 9;276(45):42462-7.](上図B)。ヒストンH2AXはヒストン8量体に含まれるヒストンH2Avariantで、ヒストンH2AよりもC末が長い構造となっており、Ser139がリン酸化されると、[γH2AX]と呼ばれることがあります。(ATMによってリン酸化されるSer139はヒストンH2Aに含まれていません。)

γH2AXには,アダプター的に働くMDC1が結合します(下図)。MDC1は常にMRN complexと結合しているので、DNA損傷部位でATMの活性化が進むと考えられます。そして、活性化した多くのATMによるヒストンH2AXのリン酸化がDNA損傷周囲に広がっていきます。このDNA損傷部位に同じタンパク(あるいは同じ修飾を受けたタンパク)が集結する様子は、蛍光抗体法によって観察することができます。

DNA損傷部位にやってきたMDC1ATMによりリン酸化を受けます。リン酸化を受けたMDC1にはRNF8というE3 ubiquitin ligaseが結合します。DNA損傷部位にやってきたRNF8は、DNA損傷周囲のヒストンH2AとヒストンH2AXをモノあるいはジユビキチン化します。そして,ユビキチン化したヒストンにはRNF168というE3 ubiquitin ligaseが結合し、E2 conjugating enzyme UBC13とともにヒストンH2A(X)(および未知の基質)のユビキチン化を進めます。このときにできるユビキチン鎖はユビキチンのリジン63で重合しており、よく分解の目印として知られているリジン48で重合したものとは立体構造が異なっています。

このようにしてできたユビキチン鎖には,RAP80/ABRA/BRCA1からなるタンパク複合体が結合します。また、ヒストンがポリユビキチン化することで、DNA損傷周囲のクロマチン構造が変化し、むき出しとなったメチル化ヒストンH453BP1が結合します。これらの過程を経て、細胞はhomologous recombinationや細胞周期チェックポイントを機能させます。

これまでに登場したタンパク(遺伝子産物)に異常があり,このシグナルカスケードが減弱してしまうと、放射線などによるDNA損傷に弱くなります













大阪大学大学院 医学系研究科 細胞応答制御学